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来熊2年/改めて熊本の交通問題を考える

★熊本県内の幹線道路ネットワークは脆弱であり、また熊本都市圏の交通渋滞も解消していない。熊本地震からの復旧・復興を、課題解消のエネルギーにかえていきたい。

 熊本に赴任して、昨日(2017年12月16日)でちょうど2年になる。九州勤務は2回目で、前回(平成1994~1999年)から20年近く経っているが、残念ながら熊本県内の幹線道路の整備はあまり進んでおらず、また熊本都市圏の交通渋滞も解消していない(交通量が非常に多い)、というのが着任直後の第一印象であった。  そして、4ヶ月と経たないうちに熊本地震が発生し、県内の幹線道路ネットワークの脆弱性がより明らかになった。九州縦貫道(南北軸)や国道57号(東西軸)の通行止めによって、人流も物流も麻痺することとなり、様々な活動が制約をうけることとなった。その影響は、残念ながら現在も続いている。

 今回は、「くまもと経済」2017年11月号に掲載された自身のインタビュー記事を紹介することで、改めて熊本の交通問題を考える機会とさせていただいた。

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-昨年4月の熊本地震から1年半が過ぎました。率直な感想から。  国道57号南阿蘇村立野地区ではこれまでに例を見ない規模の斜面崩壊が発生するなど、発災直後の対応は困難を極めました。しかし、応急復旧段階ではミルクロードやグリーンロードなど迂(う)回路の確保を最優先とし、その後は、代行事業で進めてきた県道熊本高森線俵山トンネルルートを昨年12月に、ことし8月には村道栃ノ木~立野線長陽大橋ルートを開通させることで、被災地域の復旧・復興に国として貢献することができたのではないかと思っています。当事務所が担当する国道57号北側復旧ルートは6月に着工し、2020(平成32)年度の供用を掲げていますが、1日でも早く開通できるよう頑張らなければ、との思いを強くしています。 -「北側ルート」は6月の着工から4カ月が経ちましたが、現在の状況は。  ポイントとなる「二重峠トンネル」は阿蘇市と大津町、両側から本坑と避難坑の2本のトンネルを同時に掘削しています。10月16日現在で大津側の避難坑が575m、本坑が99m、阿蘇市側は避難坑が339m、本坑が20m掘り進んでいます。大津側の坑口付近はミルクロードの真下を通過するため、強固な地山補強を実施することで通行に支障が出ないようにしたほか、阿蘇側の現場は民家が近く、振動や騒音に細心の注意を払い工事を進めています。 -昨年7月にルートが決まり、8月には用地買収着手、ことし6月にトンネルが着工しましたが、このスピードについては?  異例の速さです。13㎞のルートを5年未満で開通させるのは私自身も初めての経験です。調査や設計、測量、発注、工事をほぼ同時に進行させ、できる限りのスピードアップを図っています。用地買収も順調で全体の進ちょく率は約90%。阿蘇市側は100%の状況です。地元の方が大変協力的でとても有り難く感じています。 -スピードアップを図るために新たな工法などは導入していますか。  トンネル掘削をいかに早めるかがポイントになることから、「ECI」(技術提案・交渉方式)と呼ばれる手法を採用、詳細設計と工事発注手続きを同時進行させ着工を半年以上前倒しし、施工業者の技術提案を設計に反映させることで工期の1年以上短縮を図っています。24時間態勢の掘削は阿蘇と大津、両側からに加え、避難坑から横穴を開け本坑途中の3カ所からも掘削を進め、少しでも工事をスピードアップさせたい考えです。 -幹線道路整備についてですが、今年度重点を置いている路線は。  まず九州横断道延岡線の小池高山IC(御船町)~北中島IC(山都町)間10・8㎞区間。来年度の供用開始に向け、全面展開しています。工事は舗装や付帯工事を残し仕上げ段階と言えます。詳しい供用時期については未定です。北中島~矢部IC間10・4㎞は用地買収と同時に、順次橋の下部工を着工しています。南海トラフ地震発生時の救援ルートとして存在感も増しており、リダンダンシー(多重性)確保の意味でも未整備区間の事業化は課題です。 -そのほかのポイントは。  12年の九州北部豪雨をきっかけとして事業化した中九州横断道路「滝室坂道路」のトンネル(4・6㎞)工事を近く発注する予定です。年度内に契約を済ませ来年度の着工を見込んでいます。外輪山を貫くため、水文調査に加え、工事も地下水に配慮した工事になると見込んでいます。このほか、熊本都市圏の「熊本北」「植木」両バイパスの整備に力を入れています。都市圏の中でも一帯の渋滞は著しく、少しでも緩和を図りたい。熊本西環状道路との連携により、環状機能も高まるため、整備を急がなければなりません。 -渋滞をはじめ、熊本の道路の課題について考えを。  一つ目は渋滞をどう緩和、解消していくか。着任してみて、熊本県内の幹線道路は、他県と比べ車が多いと感じました。特に、熊本都市圏は菊陽町や合志市など東部エリアに人口が厚みを増していて、朝は特定の時間帯に市内中心部に向かって一気に通勤のマイカーが集中するといった状況です。公共交通機関の利用が少なく、道路が通勤交通のほぼ全ての役割を受け持っている。渋滞緩和に向けて「植木」「北」両バイパスの整備は最低限必要ですが、今後新たな道路の整備や拡幅だけで渋滞が解消できるかは疑問です。ここを整備すれば解消できるといった“特効薬”はなく、もっと広い観点で総合的に考える必要があると思います。  例えば公共交通機関の利用促進や都市圏に流入する車を抑制、マネジメントするといった考え方も必要でしょう。通勤時の決まった時間が混雑していますから、解消のためのフレックスタイム導入などもその一つかと思います。都市圏交通のビジョンとなる「熊本都市圏都市交通マスタープラン」が昨年策定され、県や市町村、交通事業者、国などでアクションプラン策定のための戦略会議がスタートしています。その中でソフトを含めた渋滞解消についての議論が始まっており、当事者の一人として議論の進展に注視しています。  二つ目は軸となる幹線道路のネットワークの重要性です。熊本地震では国道57号立野地区の寸断などで東西軸の流動が麻痺してしまいました。中九州横断道路や九州横断道路、熊本天草幹線道路等が該当しますが、一本だけではない、リダンダンシー(多重性)効果を生む横軸の整備をしっかりと進めていく必要があると痛感しています。

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 熊本地震 道路復旧状況(熊本河川国道事務所)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/fukkyuu.html

 新たな道づくり(熊本河川国道事務所)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/road/juutai_taisaku/index.html

 熊本都市圏の渋滞対策(熊本河川国道事務所)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/road/juutai_taisaku/kanjou.html

(国道57号熊本東バイパスの交通渋滞の様子:保田窪歩道橋から)

(国道57号熊本東バイパスの交通渋滞の様子:保田窪歩道橋から)

(今回の舞台)

(2017年12月17日)

関連ページ(熊本国土学) <第57回>熊本地震から1年(2017/04/16)

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