熊本地震から1年
★熊本河川国道事務所では、地域の期待に応えることができるよう、九州地方整備局(本局)、熊本復興事務所、国総研、熊本県、関係市町村などと連携して、引き続き全力で災害復旧事業に取り組んでまいります。
平成28年4月14日21時26分、熊本地方を震央とするマグニチュード(Mj)6.5の地震が発生(前震)。さらに、その28時間後の4月16日1時25分にはMj7.3の地震が発生し、益城町と西原村で震度7を観測しました(本震)。 延べ4,000回を超える余震による影響を含め、「熊本地震」は熊本~阿蘇周辺地域に甚大な被害を与えました。多数の家屋倒壊や土砂災害による人的被害、電気・ガス・水道などのライフラインへの被害のほか、空港・道路・鉄道などの交通インフラにも甚大な被害が生じ、県民生活や中小企業、農林漁業や観光業などの経済活動にも大きな支障が生じました。
あれから1年が経ちました。今月に入って、熊本県内各地では、犠牲者追悼式や各種記念式典・復興イベントなどが開催されています。 国土交通省(九州地方整備局)直轄で実施している道路復旧の取り組み、具体的には、国道57号(砂防事業、現道部、北側復旧ルート)、国道325号阿蘇大橋、県道28号熊本高森線(俵山トンネルルート)、村道栃の木~立野線(長陽大橋ルート)にも、それぞれ進捗がみられます。 (1)国道57号(阿蘇大橋地区土砂災害の砂防事業) 国道57号南阿蘇村立野地点(=阿蘇大橋地区)の大規模斜面崩壊の規模は、長さ約700m、幅約200mにわたり、崩壊前後のLP(レーザプロファイラ)測量で崩壊土砂量は約50万立方メートルと推定されています。また、崩壊斜面の上部には多数の亀裂が発生しており、降雨や余震などによる更なる崩壊の危険性がありました。 このため、斜面上部に残る多量の不安定土砂の崩落による二次災害を防ぐための緊急的な対策工事を国土交通省直轄砂防事業として実施することとし、5月5日には工事に着手、監視装置の設置、工事用道路の整備、不安定土砂を受け止める二段の土留盛土工の施工、斜面頭部の不安定土砂の除去と、順次、作業を進めてきました。 今回の対策工事では、二次災害を防ぐため、崩壊地内の作業はすべて「無人化施工」で実施する必要がありました。また、崩壊地内は「黒ボク土」と呼ばれる比較的新しい火山灰質粘性土が多く含まれている崩壊土砂であり、降雨などにより水分を含むと泥濘化し重機足場が不安定になることや、濃霧による視界不良などもあって、梅雨明けまでの間の稼働率は5割以下と困難を極めました。しかし、雲仙普賢岳の噴火を皮切りに、20数年をかけて進められてきた無人化施工技術の開発と熟練オペレーターの技能(臨床経験)により、これらの困難を克服することができました。 今後は、引き続き『阿蘇大橋地区復旧技術検討会』の専門家の助言をいただきながら、斜面の恒久対策を実施していく予定です。 (2)国道57号(現道部、北側復旧ルート) 国道57号現道部については、昨平成28年末に上記緊急対策工事(砂防事業)が完了したことを受け、本年(平成29年)1月からは斜面崩壊部下の地質調査に着手し、これを踏まえた調査・検討を進めています。 また、通行止めとなっている国道57号阿蘇大橋地区の災害復旧事業として、「北側復旧ルート」の整備に取り組んでおり、現在、早期復旧に向け、現地測量、設計、用地買収、工事用進入路の整備などを全力で進めています。 なお、本ルートは二重峠の下を約4kmのトンネルで通過する計画となっていますが、トンネル工事の契約にあたっては、全国で初めて「技術提案・交渉方式(ECIタイプ)」という手法を採用しました。これは、競争参加者の中から工期短縮などについて最も有効な技術提案を行った者(優先交渉権者)と技術協力業務を契約・実施するとともに当該工事の価格交渉などを行うもので、設計段階から施工者独自のノウハウを取り入れ早期完成を図りたいと考えています。 (3)国道325号阿蘇大橋 国道325号阿蘇大橋の災害復旧は、道路法に基づく直轄権限代行事業として国が実施しています。復旧にあたっては、専門家による技術検討会を設置し、その意見を踏まえて、施工性、安全性などの観点から架替位置と構造(阿蘇長陽大橋と同じ形式のPC3径間連続ラーメン箱桁)を決定しました。現在は、早期復旧に向けて、用地買収や工事用進入路となる黒川渡河部の大規模な斜面工事を実施中です。また、阿蘇大橋の本体工事(上下部一体)も契約手続きを終え、本格着工に向けた準備を進めているところです。 (4)県道28号熊本高森線(俵山トンネルルート) 県道28号熊本高森線(俵山トンネルルート)については、大規模災害復興法に基づく全国初の直轄権限代行事業として復旧工事を進めてきましたが、昨平成28年12月24日に村道(旧道)を活用し、暫定ながら熊本市と南阿蘇を結ぶ東西方向の交通を確保することができました。 当該ルートの早期開通は、移動時間の短縮や冬期の安全な通行確保ということだけでなく、南阿蘇地域住民の生活再建、阿蘇周辺地域の物流の円滑化や観光振興など、熊本地震からの本格的な復旧・復興に向けて大きな弾みとなりました。 現在は、未供用区間にある被災橋梁(6橋)について、引き続き復旧工事を進めているところです。 なお、昨年内開通の(大幅な工期短縮が実現できた)背景には、地権者の方々や関係機関の理解と協力、工事受注者(熊本県建設業協会等)各位の尽力、そして九州地方整備局熊本地震災害対策推進室インハウス・エンジニアの技術力/マネジメント力がありました。 (5)村道栃の木~立野線(長陽大橋ルート) 立野ダム工事事務所が直轄代行(大規模災害復興法)により災害復旧を進めてきた長陽大橋ルート(村道栃の木~立野線)については、平成29年夏の応急復旧による開通を目指して、橋梁や法面の復旧工事などが進められています。 当該ルートの開通により、阿蘇大橋が完成するまでの間の代替ルートとして、阿蘇観光の玄関口としての経路が確保されるとともに、南阿蘇村の中心部と立野地区を結ぶ南北方向の移動が可能となります。 (6)ミルクロード(広域迂回路)の渋滞対策・冬期交通対策 国道57号(熊本市から阿蘇方面へ)の迂回路となっているミルクロード(県道北外輪山大津線~県道菊池赤水線)の渋滞対策・冬期交通対策として、二重峠交差点への左折レーン設置、路面標示や視線誘導標の設置、仮設トイレの設置、待避所の整備(降雪時のチェーン着脱場所、Uターン場所などとして活用)、道路監視カメラや道路照明灯の整備を実施しています。
(※上記道路復旧事業の進捗状況は、熊本河川国道事務所ホームページで確認できます) http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/fukkyuu.html
【熊本地震で学んだこと/得たもの】 今回の地震では、多重性(リダンダンシー)のある幹線道路ネットワークの必要性を痛感させられました。特に、熊本~大分を結ぶ東西幹線軸は国道57号1本しかなく、有事の際には大きなリスクになることを改めて認識させられ ました。 また、南北軸では九州縦貫道がストップしたため、国道3号が大渋滞を引き起こし、機能麻痺の状態となりました。今回のように主要幹線道路が大きな損壊を受けると、人、モノの流れがストップし、経済社会的に大きなダメージを与えることになってしまう。“1本の幹線道路 が通行不能になっても代替、迂回できる幹線道路が別にある”、今回の熊本地震は、そういう重層的な交通ネットワークの価値を改めて教えたのだと思います。 一方で、熊本地震による幹線道路網の長期通行止めと、厳冬期を前にした県道28号熊本高森線(俵山トンネルルート)の開通は、南阿蘇地域の方々に、また広域的な道路利用者の方々に、道路というインフラの存在価値を改めて認識していただくきっかけとなりました。 俵山トンネルルートの開通式では、南阿蘇村の方々が手作りの旗を振って、工事関係者に感謝の気持ちを伝えてくださいました。また、ルート沿道の方々も、通過する車両に手を振って、開通を喜んでくださいました。「最高のクリスマスプレゼントです」と地域の方に言っていただいて、私自身、とても幸せになりました。
【早期の復旧・復興に向けて】 熊本地震の発生から1年が経ちました。この4月からは、新たに「熊本復興事務所」が設置され、①白川流域における直轄砂防災害関連緊急事業、②国道325号阿蘇大橋の災害復旧工事、③熊本県道28号熊本高森線(俵山トンネルルート)の特定災害復旧など道路工事、④南阿蘇村道栃の木~立野線(長陽大橋ルート)の特定災害復旧など道路工事、および⑤国道57号現道の災害復旧工事(阿蘇大橋地区)を担当してくれています。また、熊本復興事務所には国総研の「熊本地震復旧対策研究室」も併設され、道路構造の専門家が常駐してくれています。 また、本日4月16日には、国道57号北側復旧ルート及び国道325号阿蘇大橋ルートの開通見通しについて、「平成32年度(震災から概ね5年)での全線開通を目標に復旧工事を進めていく」とお示しさせていただいたところです。 熊本河川国道事務所では、地域の期待に応えることができるよう、九州地方整備局(本局)、熊本復興事務所、国総研、熊本県、関係市町村などと連携して、引き続き全力で災害復旧事業に取り組んでまいります。
国道57号北側復旧ルート・国道325号阿蘇大橋ルートの開通見込みについて(九州地方整備局)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/press_release/h29/17041601.html
(国道57号阿蘇大橋地区)
(国道57号北側復旧ルート:二重峠トンネル阿蘇側抗口)
(国道325号阿蘇大橋:架替位置)
(暫定供用済の俵山トンネルルート:多くの車が走る)
(長陽大橋ルート:H29夏の開通に向けて工事が進む)
(今週の舞台)
(2017年4月16日)
関連ページ(熊本国土学)