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矢作川の舟運と「塩の道」<三河国土学⑤>

★三河湾で取れた三州塩は、矢作川や支川・巴川を舟で遡って古鼠/平古で荷揚げされ、そこから足助街道と飯田街道を通って信州へと輸送されました(塩の道)。


矢作川の舟運

 徳川家康による矢作新川の開削によって、河口部に港(湊)が開かれ、矢作川は岡崎を中心とする西三河地方と信州を結ぶ重要な内陸交通路になった、と過去のブログ(近世・西尾のインフラ整備<三河国土学③>)で紹介したところですが、矢作川や支川の巴川では土場と呼ばれる船着場が栄え、最盛期(1860年代、慶応年間)には、下流の中畑(西尾市)で百艘を超す川船が矢作川の川面を往来していたと云われています。

 矢作川河口の平坂湊(西尾市)では、上流から運ばれてきた年貢米等が、平坂湊から江戸まで海路で輸送された一方、三河湾沿岸で生産された塩等は、平坂湊から上流に運ばれて、岡崎や古鼠(ふっそ;豊田市)または支川・巴川の平古(豊田市)などで荷揚げされ、そこから馬で足助(あすけ;豊田市)まで運ばれ、さらに足助から信州へと輸送されました。ちなみに当時は、矢作川を川船で遡れるのは古鼠や越戸(豊田市)までが限界、支川・巴川では平古や九久平(豊田市)までが限界でしたから、その先は陸路(足助街道、飯田街道)に接続する形で交通路が形成されていました。

 江戸時代に矢作川舟運によって下流からもたらされた上り荷には、塩・鉄・大豆・干魚・醤油・味噌󠄀・酢・酒・〆粕・干鰯・陶器など、信州または奥三河からの下り荷には薪・木材・木炭・竹・刻みたばこ・米・栗・椎茸などがあったとのことです。

 さらに、矢作川や巴川は木材を運ぶ重要な輸送路にもなっており、木材は古鼠や百々(どうど;豊田市)にある大きな木材問屋で筏(いかだ)に組まれ下流に運ばれていました。

 なお、矢作川の舟運は、明治用水や枝下(しだれ)用水の完成によって河川流量が減ったことや、中央本線(国鉄)を始めとする鉄道網の整備によって輸送手段としての役割が小さくなったことを受け、明治終盤~大正時代にかけてしだいに衰えていきます。


 百々貯木場/土木紀行|建設マネジメント技術


 豊田市の百々貯木場の建設と人造石遺産(天野武弘)/中部産遺研会報第91号|中部産業遺産研究会




平坂港の入江(西尾市平坂町)


挙母土場跡(豊田市白浜町)


古鼡水辺公園(豊田市扶桑町)

※この地には、かつて古鼠土場があり、塩などの荷揚げが行われていました。現在は、多自然型川づくりの取り組み「古鼡水辺公園」として生まれ変わっています。

 ◆優秀賞:矢作川 古鼡水辺公園/お釣土場|土木学会

 ◆矢作川古鼡水辺公園/お釣土場|中部地方整備局


百々貯木場跡(豊田市百々町)


矢作川の流れ(豊田市平戸橋付近)


「塩の道」:飯田街道(中馬街道)と足助街道

 「塩の道」は、塩や海産物を内陸に運ぶのに使われた運搬路のことで、製塩手法を海辺の塩田に頼っていた時代、特に雪深い内陸地域に住む人にとって、「塩の道」は重要な生活路として位置づけられ、全国に数多くありました。

 今回紹介する飯田街道(中馬街道)と足助街道も、日本を代表する「塩の道」の一つであり、三河地方(西三河地域)の発展にとって大きな役割を果たしてきました。

 足助街道は岡崎と足助とを結ぶ街道(現在の愛知県道39号岡崎足助線はこのルートを概ね継承している)、飯田街道は名古屋から足助を経由して長野県伊那谷を通って塩尻に至る街道(その道筋は、ほぼ現在の国道153号になっている)で、三河湾で取れた三州塩は矢作川と支川・巴川を舟で遡って、岡崎、古鼠またはで九久平で荷揚げされ、そこから馬で足助街道や飯田街道を通って信州へと輸送されました。これが「塩の道」です。

 山がちの街道をつたう物資の運送手段として中馬(信州の農民が行った馬の背を利用した荷物輸送業のこと。途中での荷物の積み替えなしに、物資を目的地まで直送した)が多く利用されたことから、飯田街道は別名「中馬街道」とも呼ばれ、現在では国道153号のうち豊田市中心部から大野瀬町の長野県境付近にいたるまでが「塩の道~中馬街道」として日本風景街道の一つに登録されています。


 塩の道 | 検索サイト2021


 飯田街道 豊田市(旧足助町地区)|Network2010


 「日本風景街道」新しさからなつかしさ塩の道 中馬街道|豊田市



「塩の道」中馬街道/秋葉山の常夜灯、弘化2年の道標(豊田市足助町)


足助の町並み

 近世、足助街道と飯田街道が接続する物資の中継地として繁栄した足助の宿の町並みは、1775年(安永4年)の大火後に、防火を意図して漆喰で軒先まで塗り固めた塗籠造りの町家が建ち並び、今日にその面影を伝えています。

 また現在、足助の町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区「豊田市足助伝統的建造物群保存地区」に選定され、その保存・活用が図られています。


 重伝建の町並みを歩く|豊田市足助観光協会


 豊田市足助(愛知県)/「重要伝統的建造物群保存地区一覧」と「各地区の保存・活用の取組み」|文化庁


足助の町並み(豊田市足助町)


(今回の舞台)



(2023年09月17日)

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