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リダンダンシーを確保する(『天城橋』開通と滝室坂トンネル着工)

★高規格幹線道路や地域高規格道路の整備は、平成28年熊本地震を経験した熊本県にとって、また、南海トラフ巨大地震・津波に備えなければならない九州全体にとって、「リダンダンシーの確保」の要となる最重要プロジェクトである。早期整備が求められている。

リダンダンシー(redundancy)とは、「「冗長性」、「余剰」を意味する英語であり、国土計画上では、自然災害等による障害発生時に、一部の区間の途絶や一部施設の破壊が全体の機能不全につながらないように、予め交通ネットワークやライフライン施設を多重化したり、予備の手段が用意されている様な性質を示す。」 (国土交通省 用語解説ページ http://www.mlit.go.jp/yougo/j-r.html

 平成28年4月14日・16日に発生した熊本地震では、私自身、リダンダンシーのある幹線道路ネットワークの必要性・重要性を痛感させられた。特に、熊本~大分を結ぶ東西幹線軸は国道57号1本しかなく、有事の際には大きなリスクになることを改めて認識させられた(国道57号は、南阿蘇村立野地区に於いて、地震発生から2年2ヶ月経った今も「通行止め」が続いている)。  また、南北軸では九州縦貫道がストップしたため、国道3号が大渋滞を引き起こし、機能麻痺の状態となった。今回のように主要幹線道路が大きな損壊を受けると、人、モノの流れがストップし、経済社会的に大きなダメージを与えることになってしまう。“1本の幹線道路 が通行不能になっても代替、迂回できる幹線道路が別にある”、今回の熊本地震は、そういう重層的な交通ネットワークの価値を改めて教えてくれた。

 熊本県内の主要幹線道路(高規格幹線道路、地域高規格道路)の整備は、残念ながら「遅れている」と言わざるを得ない。とりわけ、熊本都市圏を中心にして東方(大分方面)に延びる「中九州横断道路」と南西方向(天草方面)に延びる「熊本天草幹線道路」については、そのほとんどが未整備(未供用区間)であり、現在、主要幹線道路は国道57号しか無い(天草方面には国道266号も併走しているが、渡海部はいずれも1本の橋で繋がっているだけである)ことから、まさに「リダンダンシーの確保」が大きな課題となっている。そうした中、今後の整備促進に弾みがつく「明るい話題」が2件続いた。

 熊本県内の高規格幹線道路・地域高規格道路の整備状況(熊本河川国道事務所)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/road/chousa_suishin/index.html

【三角大矢野道路(天城橋)開通】  熊本天草幹線道路は、熊本市と天草市本渡町(旧本渡市)を結ぶ延長約70kmの地域高規格道路で、熊本県の総合計画に位置付けられている目標「熊本市と県内主要都市を90分で結ぶ構想(90分構想)」の実現に不可欠な道路として、その整備促進が求められてきた。  平成30年5月20日、このうち、熊本県が整備を進めてきた熊本天草幹線道路の一部区間「三角大矢野道路」が開通した。また、渡海部の橋梁(全長463メートルを誇り、アーチ橋としては国内最大級となる「上天草市と宇城市をつなぐ新しい橋」)の名称は、一般公募+人気投票の結果、『天城橋(てんじょうきょう)』と決まった。  国道266号三角大矢野道路(大矢野バイパス)は、宇城市三角町と上天草市大矢野町を結ぶ、全長3.7kmの自動車専用道路で、当該道路の開通により、交通混雑の緩和や災害時のリダンダンシーの確保(天草半島の孤立リスクの低減)、観光誘客など多くの効果が期待されている。  開通に先立ち、地元紙・熊本日日新聞は、特集企画記事「大矢野バイパス開通前夜」を連載するとともに、5月21日の朝刊では「新天草1号橋開通 千載一遇の好機生かそう」というタイトルで、次の社説を掲載している。インフラ整備に携わる一人の技術者として、幹線道路の価値(整備効果)を的確に捉え、また地域の将来を見据えた一連の記事(企画)に感謝したい。  「上天草市大矢野町と宇城市三角町を結ぶ新天草1号橋「天城橋」を含む、国道266号「三角大矢野道路」(大矢野バイパス、3・7キロ)がきのう、開通した。  離島だった天草と九州本島をつなぎ、生活と観光両面で住民を支え続けた天草五橋の歴史に新たな1ページが加わった。熊本地震の爪痕が今なお深い県内では、久々の明るい話題であり、復興の希望ともなろう。  大矢野バイパスは、熊本都市圏と県内主要都市を90分以内で結ぶ県構想の実現に向け、国や県が整備中の自動車専用道路・熊本天草幹線道路(約70キロ)の一部。熊本市方面への陸路のアクセスをl号橋「天門橋」に頼ってきた天草の人々にとって、ルートが2本に増えた意昧は大きい。

程遠い「90分構想」  現在の天草五橋は、平日でも1日約1万7千台が利用し、交差点や橋上などで車が数珠つなぎになることもしばしばだ。一部とはいえ、今回の開通によって渋滞緩和はもちろん、災害時の道路ネットワーク機能が増し、救急搬送での効果も期待できよう。  もちろん、天草全体の交通基盤の脆弱さが解消されたわけではない。熊本天草幹線道路は、これまでに上天草市松島町~天草市有明町13・3キロと大矢野バイパスが開通しただけ。残り区間のほとんどは着工のめどすら立たない。  国、県ともに財政状況は厳しく、特に県には熊本地震からの復旧・復興という優先課題もある。今のペースで進めば、熊本~天草間が90分で結ぼれるのは20~30年先といった状況だ。 人口減、防災対策を  1966年の五橋開通時、約20万人だった天草地域全体の人口は現在10万人を切った。この10年間の人口減少率は県全体が2・9%なのに対し同地域は14・2%にも及ぶ。2060年には6万3200人まで減るという人口推計もあり、地元の危機感は強い。  また、天草が事実上「袋小路」の状態となっていることに対し、防災上の懸念もある。熊本地震の経験から、大規模災害時に複数の避難ルートを確保できるよう求める意見も少なくない。  県は、人口増に向けて天草の可能性を引き出し、防災避難対策を強化するためにも、国と連携して熊本天草幹線道路の早期整備に知恵を絞ってもらいたい。  南蛮文化の薫り豊かで、風光明媚な景観を持つ天草は、阿蘇と並び県を代表する観光地でもある。五橋開通時、天草には県内外から大勢の観光客が訪れた。これによって、五橋とそれをつなぐ国道を含めた「パールライン」の事業費の償還には当初、30年かかると予想されていたが、わずか9年で完済を遂げた。  県観光統計調査によると、ピーク時には500万人を突破したこともあった観光客数は伸び悩み、この10年余りは400万人前後で頭打ち。県が掲げる470万人の目標には遠く及ばない。  そんな中での新1号橋の開通である。橋そのものがすでに新たな観光スポットであり、1号橋の宇城市側のたもと付近には世界文化遺産の三角西港がある。今夏には、天草市河浦町の崎津集落を含む「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録される見通しで、観光面で大きな追い風となろう。 広域連携で魅力向上  新1号橋と世界遺産効果をいかに観光振興に結びつけるか。熊本にとって千載一遇の好機と言ってよかろう。この2月には天草、上天草、宇土、宇城4市の観光団体でつくる「天草・宇土半島観光連盟」が発足。広域連携で開通効果を最大限にしようという動きが始まった。そうした取り組みによって地域の魅力が増し住民の暮らしが向上することを願いたい。」(以上、全文)

 熊本天草幹線道路「三角大矢野道路」が開通しました!新しい橋の名前決定!!(熊本県)↓ http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_23760.html

 新天草1号橋(仮称)開通記念 宇城市・上天草市合同特設ページ「未来をつなぐ架け橋」↓ http://www.city.uki.kumamoto.jp/sp/

 大矢野バイパス開通 新天草1号橋は「天城橋」に(熊本日日新聞)↓ https://this.kiji.is/370898969251120225?c=92619697908483575

(天城橋:三角西港からの眺め)

(天城橋:近景)

(三角大矢野道路開通式:天城橋上にて)

【滝室坂トンネル着工】  熊本国土学<第37回>でも取り上げたが、熊本市と大分市を結ぶ唯一の主要幹線道路・国道57号は、九州を横断するという重要な役割を果たしているが、その一方で、熊本・大分県境付近(阿蘇外輪山を越える「滝室坂地区」)は、道路線形が悪く、勾配も急で、また冬季の積雪・凍結も大きな懸念材料となっている。  さらに、国道57号滝室坂地区は、平成24年7月の九州北部豪雨により斜面崩壊等が発生し、40日間もの全面通行止めを余儀なくされた履歴を持ち、その後、仮橋での応急復旧、洞門(ロックシェッド)での本復旧を図ったものの、現在も、連続雨量140mmで事前通行規制を行なわなければならない区間となっている。

(グレーダーによる大型スタック車両の牽引 2018.1.22国道57号滝室坂)

(国道57号・滝室坂洞門)

 こうした課題を解消するため、現在、整備が進められているのが「国道57号滝室坂道路」。当該プロジェクトは、約4.8㎞の長大トンネル(仮称・滝室坂トンネル)を含む完成2車線の自動車専用道路を建設するもので、将来的には(ネットワーク的には)、熊本市と大分市を結ぶ延長約120kmの地域高規格道路「中九州横断道路」の一部を構成する区間でもある。  滝室坂道路の整備により、線形不良箇所及び路面凍結の回避が可能となり、走行性向上及び交通安全性の向上が期待できるとともに、大規模災害発生時における救援ルートの多重化と広域化が図られることとなる。また、大分県と熊本県の沿線各都市間の所要時間短縮や高速定時性の確保が図られ、観光・交流促進、物流の効率化等に貢献することが期待されている。

中九州横断道路 滝室坂道路(熊本河川国道事務所)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/road/juutai_taisaku/takimurozaka.html

 中九州横断道路 滝室坂道路(九州地方整備局)↓ http://www.qsr.mlit.go.jp/s_top/jigyo-hyoka/161115/shiryou5_takimurozaka.pdf

 平成30年6月24日、滝室坂トンネルの着工式が挙行された。熊本市と大分市を結ぶ「中九州横断道路」は、平成28年熊本地震を経験した熊本県にとって、また、南海トラフ巨大地震・津波に備えなければならない九州全体にとって、「リダンダンシーの確保」の要となる最重要プロジェクトである。早期整備に向けて、最善を尽くして参りたい。

(滝室坂トンネル着工式)

(滝室坂トンネル着工式)

 滝室坂トンネルが着工 阿蘇外輪山貫く4・8キロ(熊本日日新聞)↓ https://kumanichi.com/news/526210/

 中九州横断道路 滝室坂トンネルが着工(建産プレスくまもと)↓ https://kensanpress.com/news/24902/

(今回の舞台)

(2018年6月24日)

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