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矢作ダムがもたらす安らぎと潤い<三河国土学⑭>

★「矢作ダム」は、治水(洪水調節)・利水(農業用水、工業用水、水道用水の供給)・水力発電において大きな役割を果たすとともに、インフラツーリズムの目的地としても人気を博しています。

 

小学4年・社会科教科書で学ぶダムの役割

 小学4年生の社会科には、「人々の健康や生活環境を支える事業」について学ぶ単元があります。その中では、供給事業として飲料水・電気・ガスの中からいずれか一つ、廃棄物処理事業としてゴミ処理・下水処理の中からいずれか一つを選択して学習することになっていますが、検定を受けた三つの教科書(東京書籍・教育出版・日本文教出版)はいずれも、「飲料水+ゴミ処理」をメインターゲットとして教材化しています。

 このうち、飲料水の供給(上水道事業)については、いずれの教科書も、生活単位や地域単位の水の需給量を調べるところからスタートして、供給の仕組みや経路(水源林の確保、ダムや貯水池、浄水場での高度技術処理や水質検査、水道管など)を調べるとともに、各種施設や事業所などの建設に関わる県内外の人々、節水などに関わる県内の人々の連携や協力について調べることを通して、飲料水(上水)が安全で安定的に供給され、地域の人々の健康な生活の維持と向上に役立っていることを学習する内容になっています。

 なかでも、占有率が最も高い(全国で約55%)東京書籍の教科書は、岡山県岡山市を対象地域として、18頁を割いて上水道事業の役割や仕組みを学ぶ内容となっていますが、「ダムの働き」、「森の働き(「緑のダム」とも呼ばれている)」、「水循環(下水処理を含む)」に8頁を割いているのが特徴です。このうち「ダムの働き」では、岡山市街地を流れる一級河川・旭川の上流にある二つのダム(湯原ダム、旭川ダム)を取り上げ、①旭川上流(蒜山高原)では年間降雨量が多いが、下流の岡山市では年間降雨量が少ないこと、②このため、岡山市では水不足にならないようにダムが建設されていること(上流のダムのおかげで、岡山市は水不足にならないこと)、③これらのダムは利水目的だけでなく、治水(川の水の量の調節)や発電をも目的としていることが説明されています。

 また、「ダム」の用語解説では、「ダムは、川の水量を調節したり、水力発電に利用されたりしています。ダムの建せつは、国や市などの行政と地いきの住民がよく話し合い、計画的に進められています。」と紹介されています。

 

 【第2回】小学4年・社会科で学ぶ「水インフラ」「防災」「先人の働き」(2022.7)/教科書で学ぶ「国土とインフラ」2022~23|建設マネジメント技術

 

矢作ダムの役割

 シリーズ<三河国土学>で何度も取り上げてきた「矢作川」の最上流部にも、国土交通省が直轄で管理する特定多目的ダム「矢作ダム」(高さ100.0mのアーチ式コンクリートダム)があり、治水、利水、発電などの面で大きな役割を果たしています。

 

 国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

 矢作ダム/ダム便覧|日本ダム協会

 

(1)治水(洪水調節)

 洪水調節とは、ダムへ入ってくる水量がある量(洪水量)に達したとき、ダムに入ってくる流入量の一部または全部を一時的に貯水池に貯め、下流の川に流れる水を減らすことで洪水被害を軽減する機能のことです。矢作ダムは、最大で1秒間に1,000m3(500ミリリットルのペットボトルで200万本分)の水を貯めて下流の洪水被害を軽減することができ、これまでに幾度となく洪水調節のためのゲート操作を行ってきました。

 2000年(平成12年)9月の東海豪雨(恵那豪雨)の際には、最大約780m3/sの洪水調節を行い、下流被害の拡大を防ぎました。また、本年(2023年)6月2日からの台風2号豪雨の際には、最大約440m3/sの洪水調節を行ったことで、下流域で大きな水位低減効果がありました。

 

 矢作ダムの異常出水対応(恵那豪雨災害)|国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

 6月2日からの梅雨前線による被害を低減しました|国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

(2)利水(農業用水、工業用水、水道用水の供給)

 矢作ダムは、豊田市や岡崎市など西三河地域の12,595ヘクタールの田畑に「農業用水」を供給するとともに、衣浦臨海工業地帯(碧南市、半田市、刈谷市、高浜市、武豊町、東浦町)とその背後の工業地帯(豊田市、岡崎市、安城市、西尾市、幸田町)および名古屋南部臨海工業地帯の鉄鋼、金属、重化学、繊維等工業に「工業用水」を給水するほか、西三河地域の984,100人分の「水道用水」を供給することができます。

 

(3)水力発電

 矢作ダムは、他の水利用に支障のない範囲で、水力発電も行っています。ダム直下流の第一発電所と時瀬発電所を合わせると、最大出力67,000キロワットのクリーンなエネルギーを生み出しています。

 

 矢作ダムのはたらき|国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

インフラツーリズムの目的地として

 近年、ダムや橋、港、歴史的な施設など、インフラ施設を観光する「インフラツーリズム」が注目され始めています。インフラツーリズムでは、「巨大な構造物のダイナミックな景観を楽しんだり」、「普段は入れないインフラの内部を見学する(非日常の体験を味わう)」ことができます。また、専門家(施設管理職員)から説明を聞いたり、展示物を見て回ることで、「インフラ施設の役割やつくられた背景を学ぶ」ことができるほか、地域と連携したイベントに参加することで「インフラ施設周辺の観光資源を楽める」のもインフラツーリズムの魅力です。

 矢作ダムは、こうしたインフラツーリズムを代表する施設とも言え、通年(平日9時半~10時半、13時~15時半)で開催しているダム見学(ダム操作室やダム堤体内トンネルの見学など)のほか、不定期ですが、約50mの近距離から迫力あるダム放流を見学することのできる機会(矢作ダム放流見学会)や、地域と連携した様々なイベントも企画・開催されています。もちろん、「矢作ダムカード」や「矢作ダムカレー」もあります。良い季節に、一度訪れてみてはいかがでしょうか?

 

 インフラツーリズム ポータルサイト|国土交通省総合政策局

 

 矢作ダム見学について|国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

 3年ぶりの開催!矢作ダム放流見学会|国土交通省中部地方整備局矢作ダム管理所

 

 【矢作ダムの放流現場】でっか!危険すぎる撮影と待っていた光景に驚愕・豊田市【愛知あたりまえ】|テレビ愛知 TV Aichi

 

 矢作ダム | ツーリズムとよた(愛知県豊田市の観光サイト)

 

 <旭>ダム見学に行こう!矢作ダム編 | ツーリズムとよた(愛知県豊田市の観光サイト)



矢作ダム①(左岸:豊田市時瀬町、右岸:岐阜県恵那市)


矢作ダム②(左岸:豊田市時瀬町、右岸:岐阜県恵那市)


奥矢作湖

※矢作ダムによって誕生した貯水池「奥矢作湖」は、愛知高原国定公園に指定されており、春はサクラ、秋は香嵐渓と共に紅葉の名所となっている。また、バス釣り客やツーリング客の人気スポットにもなっている。


矢作ダムカレー(げんき亭)


(今回の舞台)

  

(2024年02月04日)

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