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『鼻ぐり井手祭』とインフラ教育の可能性

★加藤清正公時代に築造された全国に類のない歴史的土木施設「馬場楠井手の鼻ぐり」。これを後世に承継するため菊陽町で毎年開催している「鼻ぐり井手祭」にインフラ教育の可能性を見た。

【馬場楠井手】  ここ熊本では、戦国武将・加藤清正公の評価は極めて高い。これは、肥後熊本のシンボル「熊本城」の築城、菊池川・白川・緑川・球磨川など全県下に亘る治水・利水工事、有明海の干拓、豊後街道をはじめとする道づくりなど、土木・建築事業によって、今日の熊本の礎をつくった功績によるところが大きい。  今回紹介する「馬場楠井手」も清正公の功績の一つ。菊陽町馬場楠の白川取水口(馬場楠堰)から熊本市の大江渡鹿(東海学園前駅近く)まで続く延長約12kmの井手(農業用水路)は、現在でも馬場楠堰土地改良区の適切な管理のもと、多く(約176ha)の田畑に水を供給している。  当時、白川の南側に広がる「白水台地」は、川が流れる場所より一段高く、水を引いて米や野菜を栽培することが困難な土地であったことから、清正公は、上流から人工的に井手(農業用水路)を掘ることで農地を開発し、人々の生活を豊かにした。江戸後期の熊本藩士で、後年、藩内各地(手永)の惣庄屋を歴任し、清正公の遺業を書物にとりまとめたことでも有名な鹿子木量平(1753-1841)の著書『勝国治水遺』によると、馬場楠井手の整備によって、約95町(約95ヘクタール)にもおよぶ農地が開発され、それまでの約3倍の収穫量をあげることができたとある。

【鼻ぐり】  そして、この馬場楠井手が後世、注目をあびることになった理由は「鼻ぐり」と呼ばれる水を通すトンネル状の溝穴の存在。白川取水口(馬場楠堰)から下流2kmに位置する中須山(約390m区間)に井手を整備するためには、堅い岩盤を底深く幅広く掘らなければならないうえ、築造後は地上から川底までの深さが約20mにもなるため、阿蘇山から供給されるヨナ(火山灰土)が堆積し詰まると、それを除去することが難しいという大きな課題が横たわっていた。  こうした課題を解消するために考え出されたのが「鼻ぐり」工法。水力を利用して溜まった土砂を排出させる仕組みで、この穴の形が牛の鼻輪に似ていることから「鼻ぐり」と呼ばれている。具体的な構造とメカニズムは、岩盤掘削時に適当な間隔(2~3mおき)で仕切岩盤(高さ4m×幅1m)を残すとともに、水の通る下辺には直径約2mの穴を左右交互に設けることで、壁穴を抜けた水が次の壁にあたる際に内部で渦巻き、ヨナも常に攪拌されて水とともに次の穴へ押し流されていくという当時としては画期的なもの。この「鼻ぐり」は建設当時80基ほどあったと『勝国治水遺』に記録されいるが、残念ながら現在は24 箇所を残すのみとなっている。

【鼻ぐり井手祭】 地元の菊陽町では毎年、加藤清正公時代に築造された全国に類のない歴史的土木施設である馬場楠井手の鼻ぐり(通称:鼻ぐり井手)を良好な管理で保ち、後世へ承継するため「鼻ぐり井手祭」を開催している。  今年も11月19日(日)、快晴の下、鼻ぐり井手公園にて「第9回鼻ぐり井手祭」が開催された。ボランティアガイドや菊陽南小学校児童による鼻ぐり井手の案内、馬場楠獅子舞保存会による演舞、菊陽南小学校児童による音楽劇「後の世のために~世界に一つしかない鼻ぐり井手~」など、子供から年配の方々までが参加して楽しむことができる、そしてインフラの価値を学ぶことのできる素晴らしいイベントであった。 歴史的なインフラ「馬場楠井手の鼻ぐり」を核にした公園の整備、大人向け・子供向け・インバウンド向け(英語・中国語・ハングル)パンフレットの作成、「鼻ぐり井手祭」という毎年のイベント開催、そして地元小学生に対する(による)郷土教育の実践など、まさにインフラ教育の可能性を実感できる菊陽町の模範的取組みに心を揺さぶられた1日であった。

 馬場楠井手の鼻ぐり(菊陽町ホームページ)↓ http://www.town.kikuyo.lg.jp/soshiki/19/babagusuidenohanaguri.html

 馬場楠井手の鼻ぐり(動画)↓ https://www.youtube.com/watch?v=Pu2XD7Ja6rg

 鼻ぐり井手公園(菊陽町文化財ツーリズム)↓ http://www.kikuyotsu-rizumu.jp/hanaguri/

 加藤清正の創った歴史的遺構・鼻ぐりのヒミツ(熊本県観光サイト・なごみ紀行)↓ http://kumanago.jp/benri/terakoya/?mode=068&pre_page=4

(馬場楠堰)

(白川取水口)

(鼻ぐり井手全景)

(鼻ぐり井手の水流渦巻)

(馬場楠井手:上流)

(馬場楠井手と井口眼鏡橋)

(馬場楠井手終点~保田窪放水路~白川/大江渡鹿)

(鼻ぐり井手公園)

(鼻ぐり井手公園)

(第9回鼻ぐり井手祭の様子)

(第9回鼻ぐり井手祭の様子)

(今回の舞台)

(2017年12月10日)

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